Hallogateさん

公認会計士二次試験 <2005年合格体験記> 働きながらの短期合格

by Hallogate

【0】受験の記録を書くにあたって

 合格体験記集をご覧の皆さま、はじめまして。今年度、公認会計士二次試験に合格することができましたHallogateと申します。スポックさんのHPは受験を決意するにあたって参考にさせていただいたこともあり、今回、私の合格までの記録をご紹介し、多少なりとも今後受験をなされる皆さま(特に社会人受験生の方々)の参考になればと考えております。
 まず、簡単に受験環境等をご紹介したいと思います。私が他の方々と決定的に違う点は、仕事と並行しての受験であったという点です(本年の社会人合格者は非常に少数なので、私を特定できた方はそっとしておいてください)。受験を決意した昨年の夏ころも、そして、合格後の現在も同じ会社で働いており、空いた時間を勉強に充てていました。従って、本受験記録は、私の独断で主に社会人受験生向けとさせていただいておりますのでご了承ください(但し、時間の使い方等は、それ以外の方にも参考になるかもしれません)。

受験環境に関する情報は以下のとおりです。
<勉強期間約1年、受験回数1回、通勤時間片道45分、勤務時間8時~20時or21時、土日は休み、講義受講形態は通学DVD聴講、勉強時間については別途ファイルをご覧ください>

【1】社会人受験を考えられていらっしゃる方へ 1
(1)なぜ仕事をしながら勉強をするのか?
 今年度、1,000人を超える社会人(銀行員・会社員)の方々が公認会計士二次試験にチャレンジされています。では、なぜ仕事をしながら受験勉強を行うのでしょうか?「現在の仕事に不満があって新たな道に進みたいから」、「合格できなかったときのリスクヘッジのため」、「今の仕事に会計士の資格が役に立つから」、「仕事をしながら合格すれば箔が付くから」などなど、さまざまな理由があると思います(ちなみに私は、当時の仕事に不満があったわけではなく、当時の仕事との親和性が高く、会計士試験の勉強が役に立つと考えたためです)。

 これから仕事をしながら会計士試験を受験しようと考えている方は、まず一度立ち止まって、なぜ仕事を続けながら受験しようと考えるのかを考えていただきたいと思います。というのも、仕事と並行しての受験は(合格しようと思えば)想像以上に過酷なものだからです。次に社会人受験の現実について書きたいと思います。

(2)社会人生受験の現実
 仕事をしながらの受験と聞いてまず考えるのは、勉強時間を確保するのが難しいという点だと思います。しかし、勉強時間以外にも、社会人受験生ならではの厳しい現実があります。

 私の場合、会社には勉強していることを秘密にしていたため、周囲の配慮は全くありませんでした。残業、飲み会、休日の付き合い等々。。。付き合いの悪いヤツだと思われても構わないと割り切って断るのも手ですが、会社に居辛くなることは間違いありません。会社における周囲からの評価と自身の勉強時間確保とのせめぎあいの中で日々生活していくことは、仕事・勉強ともに手付かずとなり、中途半端な状態となるのみならず、精神的にかなりのプレッシャーを伴います。また、論文式試験は平日に実施されますので(今年度は3日間)、受験するにはうまく会社を休む方法をあらかじめ考えておかなければなりません(専門学校の論文式答練ももちろん平日に実施されます)。そしてなによりも、試験前に社会人が勉強できない平日を利用して死ぬ気で暗記をしてくる学生・専業受験生と闘うことは大きなディスアドバンテージです。

 ※更に言えば、監査法人への就職活動や、合格後に通わなければならない実務補習なども、社会人合格を想定しているとは思えません。例えば、監査法人の面接は金曜日が初日でしたので、今年のように売り手市場で無い限り、面接を受けるには金曜日に休むことが必要です。また、監査法人は12月1日入社が原則なので、就職決定後に退職を申し出るとすれば、退職日の約2週間前となり、修羅場となることは間違いありません。実務補習についても、合格発表後すぐに開始する上、平気で平日一日講義や泊まり込み講義などが入っているので、職場での早急な仕事の調整が要求されます。

【1】社会人受験を考えられていらっしゃる方へ 2

3)仕事と並行では合格できないか?
 このような過酷な環境の中でも、週2日の休みがあり、何が何でも受かるというやる気があれば、この試験に合格することは十分可能だと思います。勉強時間が不利な点と言われますが、私は1年間で2,000時間、1日平均5.5時間を確保しました。会計士試験の一般的な姿は、年間3,000時間程度、1日平均8~9時間の勉強と聞いたことがありますので、それと比べると約3分の2しか勉強できていないことは事実です。ただ、多くの方が、一日中勉強していると、雑談をしたり、ボーっとしたりして2~3時間はムダに時間を過ごしたという経験があるのではないでしょうか。私たち社会人受験生は、全くムダのない勉強を一年間続ければ、専業受験生並みの勉強水準まで持っていくことも可能なのです。

(4)ではなぜかくも合格率が低いのか?
 とはいえ、社会人受験生1,076人中、合格者は11人(合格率1%)と、全体の合格率と比べて著しく低いのが現状です。もちろん時間的問題もあるでしょう。でも、私の周りにいた数名の社会人受験生を見た限り(あくまで私の知る一部のサンプルです)、本人の甘えも大きな原因ではないかと思います。社会人受験生は、試験に合格できなくても今の仕事があって経済的に困ることはないため、えてして合格への熱意が薄く、副業的感覚になりがちです。しかしそれでは、仕事辞めて背水の陣で臨んでる専業受験生にかなうわけがありません。私は月平均80時間程度の残業がある中で、年間2,000時間の勉強をしました。これをご覧の方、あなたは私以上に勉強をしていますか?これからする覚悟はありますか?これだけの勉強をしてでも合格したいという決意をお持ちですか?

(3)社会人受験についての個人的意見
 あくまで個人的意見ですが、仕事と並行しても、合格することは十分可能だと思います。但し、十分な覚悟・決意が必要です。もちろん、現在の仕事に活かしたいという方は、合否にかかわらず大きなプラスとなると思いますが、現在の仕事がイヤだからという方、本格的に会計の道に進みたいと考えている方は、2年程度仕事をせずに受験勉強できるだけの経済的余裕があるのであれば、仕事をやめた上で受験した方が良いと思います。社会人受験生1,076人中、合格者は11人という現実からも分かるとおり、それだけ社会人受験は困難を伴います。何年間も、場合によっては永遠に時間を無駄に使う可能性もあります。それでも仕事をしながらの受験を選択される方は、十分な決意と努力が必要です。

(以上、やや偉そうな文章になっていることをお許しください。それだけの覚悟が必要だと思うから故のものです)

【3】試験勉強
 厳しい環境でしたが、運良く私が合格できたことは事実です。そこで仕事をしながらの受験を決意された方のために、私のとった勉強法などをご紹介します。尚、私自身は、著しく特殊な勉強方法を採用していたとは考えていませんので、「こんなやり方もあるのか」と考えられるか、「この程度のやり方で合格できるのか」と考えられるかは、読者の方々にお任せします。

(1)全てを勉強につぎ込む覚悟で
 先に申し上げたとおり、社会人受験には多くの困難が伴います。そのため、受験勉強をはじめる前に、今後何よりも受験勉強を優先させるという覚悟をすること、受験勉強に集中できる環境を作ることが必要です。ご家族をお持ちの方は、事前に相談の上、了承をもらっておいた方が良いと思います。その上で、私は自由になる時間の全てを勉強に注ぎ込みました。私は勉強時間をエクセルで管理していましたのでご覧頂きたいのですが、時間が限られていると言われる社会人受験において、1年で2,000時間(1日平均5.5時間)余りの勉強時間を確保しています。やろうと思えば、仕事と並行してでもこのくらいの勉強はできるのです。

(2)有利な点・不利な点を洗い出す
 社会人の方は、他の大部分の受験生と立場が異なるわけですから、自分の置かれた環境や、他の受験生との違いを分析してみてください。ちなみに、私の場合は、勉強を開始するにあたって以下のようなことを考えました(大部分の社会人受験生にあてはまるのではないでしょうか)。
 私が専業受験生と比べて圧倒的に不利であった点は、やはり時間的な制約です。時間的な制約には2つあります。一つは勉強時間がどうしても短くなってしまうという点、もう一つは、講義をライブで受けられなかったり、他の受験生仲間と同じ空間で勉強できないという勉強時間帯の制約です。
逆に有利な点は、よく言われているものですが、文章力、実務経験で鍛えられた現場対応力、やる気(自分でお金を払ってますから)などかと思います。
従って、文章力や現場対応力といった有利な点を活かしつつ、時間面での不利を補うにはどうすれば良いかという観点から受験戦略を立てていました。

(3)有利な点・不利な点を踏まえた勉強方法
1.勉強方法の基本
 勉強時間が限られていることを前提として私がとった勉強法の基本は、

完全な理解や暗記よりも進度を重視すること(とりあえずついていく)
腹八分目を守ること(必要以上に細かくやりすぎない)
専門学校を信じること(他の教材に手を出さない)
 でした。この3点は、論文式試験が終了するまで守り抜くことが出来たと思います。

 尚、多くの社会人受験生は、通信又は通学の上ビデオ・DVDで聴講するという形で専門学校を利用していると思いますので、以下、通信又は通学DVD等を前提としてお話します(うまくまとめることが出来ず、箇条書き形式になってしまい申し訳ありません)。

2.インプット(講義の受け方、自習の仕方)に際して気をつけたこと
○講義は疲れの無い土日に視聴し、視聴と同時に理解も行う
 まず、インプットに際して最も意識した点は、講義を視聴しながら講義内容や論点の理解を終了させてしまい、講義を聴いた後の理解時間を極力短縮するということでした。これは、インプットにかけられるトータルの時間は専業受験生より短いにもかかわらず、DVD等の再生時間は他の受験生と同じだけ必要であるという事実から導かれる当然の帰結だと思います。そのため、私は講義の視聴は全て土日に行いました。頭も体も仕事で疲れた平日に講義を視聴すると無駄に時間だけが過ぎていき、講義終了後には頭にほとんど残っていないからです。

○板書は見ない
 当然のことかもしれませんが、DVDとセットでもらえる板書ノートは一切見ませんでした。これは、講義への集中力を高め、理解しながら視聴するためです。板書にマーカーを引くだけの講義視聴方法では、頭にはほとんど残らない可能性が高いように思います。

○完全な理解や暗記よりも進度を重視
 これは、先に会計士試験受験経験のある先輩からの助言によるものです。ライブクラス以外では、講義の視聴開始がライブ講義よりもかなり遅くなります。一気に講義を視聴できる専業受験生と違い、社会人受験生は講義の視聴時間が限られますから、少しでも教材を溜めてしまっている、ひたすら暗記が要求される短答式試験前まで講義を視聴する事態に陥りかねません。そこで私はとりあえず教材を溜めず、ペースについていくことを心がけました。試験の本番でモノを言うのは、試験前1~2ヶ月程度で覚えた知識であることからも、ある程度有効な戦略だったと思います。
○テキストを勉強のベースにする
 多くの受験生は、インプットが一通り終わった後に、暗記の材料をまとめるために資料の集約という作業(=テキスト・ノート・レジュメ・答練等の中から必要なものを抽出する作業)を行うらしいです。この作業にはそれなりの時間がかかるため、社会人受験生には時間が不足すると思います。そのため、私は講義中の板書や答練等で気になった点は全てテキストに書き込み、資料を分散させないよう心がけていました。
3.アウトプット(答練)に際して気をつけたこと
○100点取れるように程にはやらない
 公認会計士2次試験の合格には満点は必要ありません。全科目平均点+αで合格する試験です。そこで、答練の受験・復習にあたっては、完璧に出来るということにはこだわらないよう気をつけていました。具体的には次のようなものです。

計算科目・・・同じ問題に時間をかけすぎない。何度も解かない。
理論科目・・・完全な暗記は求めない。

 計算科目については、「100点を取れるまで繰り返し解くべし」などという宗教染みたコメントを聞くことも多いと思いますが、非常に時間がかかることから、私は全く気にしていませんでした。知らない論点があれば個別に勉強すれば済みますし、ミスによって満点がとれない場合まで解きなおすのは時間の無駄です。そこで、私は計算答練に対しては、「ミスは気にせず、知らない論点のみ復習する」というスタンスで臨んでいました。

 理論科目については、大部分の人が文章の暗記を行うことと思いますが、私には完全に暗記する時間はほとんどありませんでした。そこで、理論科目の各論点については、一読して、ポイント・流れを頭の中で暗唱することが出来れば、とりあえず次を読むという方法で臨んでいました。社会人経験がある方は、文章力という点ではかなり有利にあると思いますので、大まかな材料さえ覚えていれば、その場で文章化できると思います。ポイントをおさえ、それを自分の言葉で説明することができれば、答練では良い点はこなくても、本試験では十分合格点が付くはずです。

○答練は極力教室で受ける
 社会人受験生に限らず通信受験生にはこれは必須だと思います。「場慣れ」と言ってしまえば簡単ですが、電卓を叩く音、六法をめくる音などに囲まれた試験は、通常の試験とは異なる”異様な”雰囲気があります。集中力を高めて答練を受ける意味でも、雰囲気に慣れる意味でも、可能な限り教室で他の受験生に囲まれながら受けることをお勧めします。
(ちなみに、お恥ずかしながら、皆さんが問題用紙を中央で破く光景を短答式答練で初めて目の当たりにして、私は大きな衝撃を受けた記憶があります。あぁ、こうやって解き始めるんだ、と)

4.その他気にしていた点
○通勤時間の自習教材の早期作成
 電車通勤をする社会人受験生にとって、通勤時間は重要な勉強時間だと思います。特に本試験前には1分でも暗記の時間がほしいものです。そこで、時間的にまだ余裕のある1月~3月にかけて通勤時間中に勉強できる教材を作っておくことをお勧めします。私は、理論科目の定義と、代表的な論証を書いた単語カードを利用していました。時間に余裕のあるうちに作成しておくこと、項目は代表的なもののみに絞って何度も繰り返すことがポイントだと思います。

○会社のデスクで勉強する手段を確保しておく
 これは邪道ですが、私の場合、期せずして会社のデスクで勉強する手段を手に入れてしまいました。それは、パソコンのワードで作成した原価計算理論集、電車で通勤中に勉強するための暗記カードとして作成した監査論の論点集です。会社ではパソコンに向かって仕事をする時間が多いので、ふと手が空いたときに見ることができ、かつ、周囲には仕事をしているように見せることができるパソコンでの暗記教材を作成するのも手かもしれません(就業規則違反だと思いますので、あまりお勧めはしませんが。。。)

○専門学校を信じる
 これが一番大事かもしれません。私は、時間的な問題もあり、他の大手と言われる専門学校の教材・答練には一つも手を出しませんでした(模試さえも受けていません)。このHPを読んでいらっしゃる方はおそらく受験生のブログ等もご覧になられるかと思いますが、そこでは他校の答練の話題や、出題情報など、様々な情報が飛び交っています。きっと他校の教材にも手を出したい誘惑に駆られるでしょうが、そこまで手を回す余裕はありません。6割の点数をとれば合格する試験ですから、全ての問題に解答する必要は無いことを常に意識して、自校の教材に範囲を絞って理解に努めるほうが良いように思います。

【4】余談(社会人の就職活動、退職等)
 私は勤めていた会社を辞め、監査法人に進む道を選択しました。社会人受験生の合格から離転職までをレポートさせていただきたいと思います。

[11/7] 昼休みにWEBで合格発表を確認
慌てて監査法人の面接予約を試みるも、昼の時点で1法人は既に満席。焦る。。。
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[11/11] 世間では大手の面接開始日だそうだが、当然自分は仕事なので面接には行けません。大丈夫かな。
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[11/12] 土曜日。面接に行ったところであっさり決まる。今年は売り手市場で良かった。。。
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[11/14] ここからは自分の勝負。会社に11月末で退職したい旨を告げる(監査法人の入社は原則12/1からなので11月末で退職する必要あり)。当然上司には寝耳に水で修羅場の予感。
夜は実務補習所の入所ガイダンス。みんな仕事をしている中、こっそり17時過ぎに抜け出す。
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[11/15] 人事部も巻き込んで必至の引き止め工作にあう。就業規則(少なくとも14日前に退職は通知すべしと規定されていた)を持ち出し抗戦。この日は、再度一晩考えてくるようにということでとりあえずお開き。
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[11/16] 意思は変わらない旨を伝えて退職の了承をもらう。
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[11/17~]社宅に入っていたこともあり、引越しが必要に。ただ、平日は仕事のため、なかなか動けず。
仕事については、慌しく部内の皆さんに引継ぎを開始。
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[11/18] 平日なのに補習所は1日講義。有休を使って参加。補習所終了後は、夜に会社に戻り、引継ぎ資料を作成。
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仕事、補習所、引越し、協会や法人宛ての書類作成、送別会等であわただしい日々。
全く休みがない。。。一週間でも骨休めの時間が欲しかった。。。
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[11/30] 最終出社日。結局有給休暇は50日以上余ってしまった。
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[12/1] 大手監査法人で勤務開始。

【5】最後に
 来年度からの新試験制度において、金融庁は社会人合格者を増やそうとしているそうですが、論文誌式試験は依然として平日に実施されるなど、社会人受験生にとってフレンドリーな試験制度になったとは言えそうにありません。お役所は、こんなところにも気を利かせて試験制度改革をやってほしいですよね。

 本試験は、試験勉強時間の多寡で合否が決まるのではなく、答案用紙に書いた内容で合否が決まります。仕事と並行しての受験で、どんなに勉強時間が短くても、点数がもらえる答案を書けるようになれば合格できるのです。

社会人受験生の方々にも十分合格のチャンスはあるのです。
 効率的な勉強方法とは、各人の置かれた環境等によって微妙に異なるものだと思います。これをご覧の受験生の皆さま、自分に合った最も効率的な勉強方法を確立され、そして合格という栄冠を勝ち取られることを心より祈念しております。拙稿がその一助となれば幸いです。